茂木健一郎 クオリア日記
ケンブリッジの恩師Horace Barlowが、
大切なことをあまり言わなかったのはなぜだろう。
およそ思想や哲学に類することはあまり口にしない。
科学とはなんぞや、などということはおよそ言わない。
ただ黙々と現実的な行為やアレンジメントをする。
こいつに会え、この会議に行け、
などとサジェストする。
ディナーをアレンジする。
気がつけば、その現実的な行為やアレンジメントを
結ぶ線上に、言わずとも思想が浮かび上がってくる。
あの叡智は何なのだろう、と思いながら、
いつのまにかそのような人生の処し方に
親近感を持ち始めている自分に気がつく。
がたがた言うんじゃない、ただ、
黙ってやればいいんだよ。
ただし、考えないで手だけ動かせとかいう、
日本の研究者にときどきいる気持ち悪い
やつらのことを言っているんじゃないぞ。
最高の教養を身につけ、もっとも深い思想を抱け。
ただし、作品として世に問う時以外は、
黙って日々の行為をせよ。
その行為の包絡線上に、その叡智がシミジミと
にじみ出てくるようにせよ。
そして、いざ思想や哲学の言葉を吐くときは、
命がけでそれに寄りかかれ。
そして、さっと忘れちまえ。
うん、人生はきっとそうだ。