滴り落ちる時計たちの波紋

滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫)

滴り落ちる時計たちの波紋 (文春文庫)

平野啓一郎の短編集の文庫版。帯には
9篇の小説、9種の企み、9つの輝き、
文学の可能性のすべてがここに。
とうたわれる。


読み始めるとまず、とまどった。言い知れない違和感がある。
今まで読んだどの小説とも違い、平野啓一郎のこれまでの著作とも違う。
何ともいえない。話の中に入り込むことができない。
拒絶されているような、一方で放っておいてもすっきりしない。


生活の一場面が、普段見過ごされるような、
それとも、あえて誰も口にしないような、そんな出来事から
描き出されていく。


作家が描いた世界は、私たちが目の届かぬ所に置いておいて
そっとしておきたいけれども、それが適わないもの。
私たちが抱える何ともいえない不安の1つのカタチのような
そんなものなのだろうか。


一方で本質を見極め、オプティミスティックな世界を描こうとするものがあり、
一方で現状を見極め、ネガティブな私のものを描き出そうとするものがあり、
そのどちらのものも世に問われている。